第8章 あなたの笑顔が見たいから
杏寿郎の修行は厳しい。
その厳しい指導を、甘露寺と共に杏寿郎の実弟である千寿郎や咲も受けていた。
咲は特に、義足を使いながらの修行であるため、常人の何倍も大変だったはずだ。
だが、そんな状況にもめげずに一生懸命鍛錬に励む咲の姿に、甘露寺はいつも胸を打たれていた。
そんな修行の日々の中、甘露寺はあることに気がついた。
師である杏寿郎が、咲に向ける眼差しのことである。
杏寿郎は普段から快活で、いつも元気いっぱいだ。
暗い顔をしていたり落ち込んでいたり、という姿を一度も見たことがない。
いつも太陽のようにニコニコと眩しい笑顔を浮かべており、その大きく見開かれた瞳のせいでまるで猫のようにどこを見ているのか分からないこともある。
大体いつもそんな感じなのである。
明るいのだが、いつも同じ表情なのだ。
だが咲に対してだけ、見たことの無いような穏やかな表情を向ける。
大きな目が柔らかく細められ、口の端がはにかんだように少し上がる。
そしてその頬が、まるで梅の花のようにほんのり赤らむのだ。
その顔を初めて見た時、甘露寺はもう、すぐに直感した。
(師範、咲ちゃんに恋してらっしゃるのね!)
キャアアーッと叫び出してしまいたくなるような甘酸っぱさに、甘露寺は心の中で身悶えた。