第2章 逢魔が時
ピーッと沸騰したヤカンのように鼻から湯気を吹き出し始めた善逸に、さすがに興奮しすぎだと思った炭治郎が、彼女から引き剥がそうとして腰を上げた。
だが、それよりも早く動いた者がいた。
「はっはっはっ!!君は少し落ち着くといい!!」
そんな声が座敷に響いたかと思ったら、次の瞬間には善逸の体は次の間にまで吹き飛ばされていた。
バーンッ、バタンッ、と襖が倒れる音がする。
「えっ……?」
吹き飛ばされた善逸はもちろんのこと、止めに入ろうとしていた炭治郎も、その光景に目をまん丸に見開いた。
一体何をどうやったのか、全くその動きが見えなかった。
だが確かに、善逸を吹き飛ばしたのは杏寿郎だった。
ちなみに伊之助は、お茶請けに出されたおかきを食べるのに夢中で、この状況に全く頓着していない様子だ。
目を丸くしたのは咲も同じことで、自分の手を握り締めていた善逸の姿がフッと消えたかと思ったら、次の瞬間には数メートル離れた場所で転がっていたので、呆然としていた。
自身の手を握っていた手はスパッと離れていき、いささかの振動すらも感じなかった。
それほどの早業だったのだ。