第2章 逢魔が時
「申し遅れました。私は隠の兎田谷蔵 咲と申します」
そう言って深々と頭を下げた咲の頬に、サラリと艶のある黒髪が流れ落ちる。
任務の支障にならないようにか、その髪は肩より上でスッキリと切り揃えられていた。
たったそれだけの動作だというのに、その端麗さに炭治郎は思わず見とれてしまう。
「可愛らしい……」
ついそう呟いてしまったが、それは善逸の大声によって誰に聞かれることもなくかき消された。
「咲ちゃんっていうんだ!」
突然、大声を張り上げた善逸に、咲の肩がビクッと揺れる。
「かっ、可愛いねぇっ!!名前も可愛いけど、顔もすごく可愛いっ!!隠の隊服とはいえ、顔を隠してるのがもったいないくらいだよっ!!」
フガフガと鼻息も荒く咲ににじり寄っていった善逸は、咲の怪我をしていない方の手を取ってそう叫んだ。
「おっふ……あ、ありがとうございます。我妻さん……」
咲はその勢いに圧倒されやや顔を引きつらせたが、一応の礼儀としてお礼を言った。
「えっ、何で俺の名前知ってんの!?えっ、何!?もしかして俺のこと好きなのっ!?もう結婚する!?あっ、いや、でも俺には禰豆子ちゃんという心に決めた人が…っ!!」