第2章 逢魔が時
「むっ!!手を擦りむいているじゃないか咲!!これはいかん、すぐに手当てをしなければ!!」
義足の事はすでに知っているのか、杏寿郎がそこには触れずに声を上げる。
「そんな大げさな…ただのかすり傷ですよ」
「いかんいかん!かすり傷とて侮るなかれ!それに、いずれにしても義足がそれでは身動きが取れんだろう」
そう言うやいなや、杏寿郎は咲の体を軽々と持ち上げた。
「わっ!」
唐突にお姫様抱っこをされる形となり、今度は咲の方が狼狽する番だった。
「杏寿郎さん!さすがにこれは…!おんぶでいいです、おんぶで!」
「いや、是非ともこれでいこう!咲、しっかりと俺につかまっていなさい!」
「う……」
「ほら、危ないから首にしっかり腕を回せ!まぁ、間違っても落としはせんがな!」
はははは、と猫のような目をしたまま笑う杏寿郎に押し負けた咲は、がっくりと首をうなだれた。
「……ぐぅ…はい」
帽子の下からわずかに覗いている眉を下げながらも、咲が指示通りにがっしりとした杏寿郎の首に腕を回すと、彼は嬉しそうにニコッと笑顔を浮かべた。
それからやや右足を前に出して踏み込む姿勢を取ると、くるりと炭治郎達の方を向いて言った。
「ここからなら蝶屋敷が近い。君達も一緒に来るといい!」
「は、はいっ」
炭治郎がそう返事をすると同時に、杏寿郎は踏み出していた足に力を込めて、ダッと凄まじい勢いで跳んだ。
「あっ、まっ、待ってくださいー!煉獄さんー!!」
すでに遥か彼方を走る杏寿郎の背中を追って、炭治郎達も慌てて走り出したのだった。