第6章 はっけよいのこった
その後ろ姿を見つめながら、杏寿郎はまだバックンバックンと脈動している心臓をそっと押さえた。
まったく、いきなりあの笑顔は反則だろう。心臓に悪い。
だがとても愛い!
もっと見たい!
そんなことを考えながら、道端に据え置かれている休憩用の椅子に腰掛けて、焼き芋屋のオヤジと話している咲の姿を見つめていると、咲がくるりと振り向いて手を振ってきた。
(うむ!何をしていても可愛らしい!)
杏寿郎もニコニコと笑いながら手を振り返したのだった。
戻ってきた咲の腕に抱えられた紙袋には、たくさんの焼き芋が入っていた。
「む!随分と買ったな」
「はい!焼き芋屋のおじさんがたくさんおまけしてくれたんです。”お兄さんとたくさん食べな”って」
そう言って嬉しそうに笑う咲の笑顔を見ていると、杏寿郎の心も焼き芋のようにホクホクとしてくる。
だが、「お兄さん」というのがどうにももどかしくて仕方なかった。
咲は、自分のことを兄のように思ってくれている。
もちろん、実の兄のように慕ってもらえるのはとても嬉しいことなのだが、「兄」だけでは足りないのだ。
自分が求めているのは「兄妹」という関係ではなく、「夫婦」という関係である。
いつか「旦那さん」と言ってもらえるようになりたいものだ。