第6章 はっけよいのこった
相撲の試合が始まった。
杏寿郎が買ってきてくれた大量の食べ物は、試合が始まる前にすでに全て平らげられていた。
腹も膨れて、普段よりもさらに元気になった様子の杏寿郎は、力士達の奮闘する姿を見て、あぐらをかいた自身の膝をバンバンと打っては「のこったのこった!!」と叫んでいる。
その声の大きさは本職の行司ばりで、杏寿郎の声に、土俵上の力士や行司がこちらを見たほどだった。
「きょ、杏寿郎さん!少しお声が大きいかと……」
会場内の人々が驚いたようにチラチラと見てくるものだから、そのあまりの恥ずかしさに咲はつい杏寿郎の隊服の端をチョイチョイと引っ張った。
「む、どうした咲!咲ももっと声を出して応援しろ!あの藤若龍という力士は、俺のイチオシなのだ!」
咲の困惑などどこ吹く風で、まるで子どものようなキラキラとした目で力士を見ている杏寿郎。
その嬉しそうな顔を見たら咲も、もう周りの目などどうでも良くなってしまった。
「分かりました!藤若龍、がんばれー!!」
咲も両手で筒を作るようにして、杏寿郎と共に声を張り上げたのだった。