第6章 はっけよいのこった
「あはは、そんな冷たいこと言わないでよー!君、見かけによらず気が強いんだねぇ。そういう子、俺好きだな」
相手が完全に自分よりも弱いと確信していることがありありと分かるような浮ついた話し方をして、なおも男達が言う。
「誰かと一緒に来てるの?お姉さんとか?もしそうなら、俺達は大歓迎だよ」
「連れはお兄さんなのだが、俺もご一緒してもよいだろうかっっ!!」
クソデカボイスと共にいつの間にか男達の後ろに杏寿郎が立っていた。
杏寿郎はその赤くてギョロリとした目で男達を見下ろす。
「杏寿郎さん!」
咲がホッとして声を上げる。
杏寿郎はズズイッと男達に迫っていった。
たったそれだけのことで、手は出していない。ただ近くに歩み寄っただけだ。
しかし、迫ってきた杏寿郎の鍛え上げられた胸筋にバインと弾かれて、男達は将棋崩しのコマのように床に尻餅をついてしまった。
「あっ、お、お兄さんとご一緒だったんですねー!兄妹水入らずのところを邪魔しちゃ悪いので、俺達……失礼しますっ」
まるで喜劇か何かのように、ピューッとあっという間に走り去ってしまった三人の後ろ姿を見て、咲はポカンと口を開けた。
その顔の前に、買ってきた焼き鳥の串を差し出して杏寿郎は笑った。
「ただいま、咲」
咲はまだ目を丸くしたまま杏寿郎の顔を見上げていたが、その笑顔の、口の端にタレのようなものが付いているのを見つけて、思わずプッと吹き出した。
「杏寿郎さん、つまみ食いされましたね?」
「よ、よもやっ!」
慌てて口元を拭う杏寿郎の姿に、咲は「あぁ、やっぱりこの方といると楽しいなぁ」と心の底から思うのだった。