第6章 はっけよいのこった
一方の咲はというと、先ほど杏寿郎の叫んだ「愛い!!」という声が耳から離れずに、まだ頬を赤くしていた。
杏寿郎さんは優しい方だ。
それに昔から私を妹のように可愛がってくださっている。
だからきっと…、今のもそんな感じで言ったに違いない。
そう、千寿郎くんに言うような感覚だ。
だから私がこんな風に頬を染めることや、ましてや嬉しいと思うことはおこがましいというものだ。
もちろん、妹として可愛がってくださっている気持ちはとても有難いと思っている。
杏寿郎さんは立派な方だ。
代々続く煉獄家を背負って立つお方だ。
私のような者がお慕いするなど、身の程をわきまえないにも程があるというものだ。
そんなことを考えながら咲がマス席の座布団に座っていると、通路に面した席であるため何人もの客達が横を通り過ぎていくのが見えた。
(杏寿郎さん、まだかな)
杏寿郎が向かったと思われる方角をチラチラと見ながら、咲が手持ち無沙汰にしていると、ポンポンと肩を軽く叩かれた。
「杏寿ろ……」
杏寿郎が戻ってきたのだと思った咲は、パッと振り返った。
だがそこにいたのは、見覚えのない男三人組だった。