第6章 はっけよいのこった
突然大声で言った杏寿郎に、咲は呆気に取られたように目をまん丸に見開いて驚いた。
近くにいたご婦人達もクスクスと微笑ましそうに笑っている。
「……う、……咲、腹が減らんか?何か買ってこよう。席で待っていなさい」
久しぶりに会って舞い上がっているのだろうか。
我ながら、自分の素直さが恥ずかしい。
そう思いながら杏寿郎は、普段はあまり落とさない声のトーンをしぼり、珍しく口調をゴニョゴニョとさせて、とっさにそんなことを言った。
「えっ、あ、はい」
咲は、その白い頬をピンク色に上気させて、恥ずかしそうに下を向きながらもコクリと頷いた。
そうして杏寿郎の腕の中から離れると、トコトコと席に向かって歩き始めた。
その小さな後ろ姿を見て、杏寿郎は思わず自分の口を手で押さえる。
(んんっ!!)
そうでもしなければ、また大声で愛い愛いと言ってしまいそうだったからだ。
(むう、俺もまだまだ鍛錬が足りないようだな)
杏寿郎は、咲が無事にマス席の中に入ったのを見届けてから、売店に向かって歩きだしたのだった。