第6章 はっけよいのこった
肩に置かれた杏寿郎の手の温もりを感じながら、咲はじんわりと心が温かくなるのだった。
杏寿郎さんは、自分が鬼に喰われそうになっていた時に助けてくれた大恩人である。
その後蝶屋敷で療養している時にも、忙しい中、時間を割いてよくお見舞いに来てくれたし、その後は剣士になるための鍛錬までつけてくれた。
命の恩人であり、師匠でもあるのだ。
言葉では言い尽くせないほどの大恩がある。
自分の能力が足りないばかりに剣士になれなかった後も、それならば隠になりたいと言った自分のために力を尽くしてくれた。
そしてこうやって今も、まるで妹のように慈しみ可愛がってくれる。
本当に、太陽のように温かくて心の優しい人だ。
この人のためだったら、私はどんなことでもするだろう。
本当に本当に、大好きだ。
厚かましいかもしれないけれど、私は杏寿郎さんのことを本物の兄のように想っている。
だから、肩を抱かれて頬が熱くなるのは、きっと気のせいだ。
そうに決まっている。
いや、そうでなければいけない。
そんなことを思いながら咲は、ともすると肩に乗せられた手からこの感情が杏寿郎に伝わってしまうのではないかと心配しつつも、努めて平静を装って歩を進めた。
咲のそんな胸中など知る由もない杏寿郎は、ウキウキとした足取りで、相撲会場に向かって歩いて行ったのだった。