第6章 はっけよいのこった
「……」
咲もそれと一緒に歩き始める。
だが少し歩いて行ったところで、こらえきれずに声を上げた。
「……あの、杏寿郎さん?」
「む!どうした!」
「その……、肩を……」
なんと杏寿郎の手はまだ咲の肩に乗っており、いわば肩を抱かれて歩いているような格好になっていたのだ。
どうりで、先ほどからすれ違う人達が「あら、まぁまぁ」と優しい微笑みを向けてくるはずだった。
「おぉ!そう言えばそうだったな!だが、また先ほどのようなことになっては危ない。相撲会場まではもうすぐだから、このまま行こう!」
「えっ」
「むう、……嫌かな?」
驚きの声を上げた咲に対して、杏寿郎はその太い眉をシュンと下げた。
杏寿郎という人は、普段は底抜けに明るくて強引、いや押しが強い、いや強気、……とにかくあまり迷わずに堂々と行動することができるのだが、たまにこういう顔をするのだ。
そしてそのギャップに咲は本当に弱かった。
「いっ、いえ!このまま行きましょう!」
「良かった!では、参ろう!」
ニカッと、いつもの表情に戻った杏寿郎が、少しだけ手に力を込めて咲の体を引き寄せ直す。
ぴったりとくっついた胸板のたくましさに、咲は思わずドキドキとしてしまう。
ズンズンと大股で歩いているようでいて、実はしっかりと咲に歩幅を合わせながら、杏寿郎と咲は相撲会場へと再び歩き始めた。