第5章 俺達が一緒に
「禰豆子ちゃん、さっきは助けてくれてありがとう」
咲は、腕の中の禰豆子に向かってペコリと頭を下げた。
「む、むー」
少しだけ得意そうな表情を浮かべニッコリと笑う禰豆子に、咲の頬にも笑みが浮かぶ。
実を言うと咲は、甚振に捕まりそうになった時、身を呈して守ってくれた禰豆子の行動を見て大きな衝撃を受けていた。
禰豆子が人を襲わないということは、すでにお館様の眼前で証明された周知の事実である。
もちろん咲も知っていた。
だがそれを知っていてもどうしても、家族が鬼に殺されたという怒りや恐れの感情が先に立って、禰豆子のことを受け入れられないでいたのだ。
それが間違いだったということを、今回の出来事により咲は身を持って理解した。
禰豆子は人を襲わない。
それどころか彼女は、例え自分が怪我を負ってでも人を守ろうとしてくれるような心の強さを持ち合わせている。
じわ、と咲の目に涙が浮かんでくる。
禰豆子への感謝の気持ちと、そんな心優しい彼女が鬼にされてしまったその身を哀れむ気持ち、それから、自分が鬼に抱いているどうしようもない憎悪……その他にも言葉にできない様々な感情が入り混じり、涙となって溢れ出てきたのだ。