第5章 俺達が一緒に
「あっ!!逃げやがった!!くそっ、待てっ」
玄弥が後を追おうとしたが、それを悲鳴嶼が制止する。
「待て……。今は捕らえられた人達を開放してやるのが先だ。隊士達の怪我も酷い」
そう言って悲鳴嶼は、今もなお木に串刺しにされて苦しんでいる人間達のうめき声に耳を澄ませ、涙を流したのだった。
咲は、いまだに苦しげな息をついている禰豆子の横顔を見て、それから、額から血を流している善逸の顔を見た。
目の前に立っている伊之助の、むき出しになった上半身のところどころは擦り切れて血が出ている。
その向こうにいる炭治郎と村田も、肩で息をしながら顔や体のところどころから血を流していた。
ツウ、と咲の頬を涙が伝う。
「また私は……何も出来なかった…。私は、あの頃のまま……何も変わっていない……!」
まるで大きな波が押し寄せるように、咲の両目から涙がとめどなく溢れ始めた。
悔しい……悔しい……悔しい……!!
せっかくあの鬼を見つけたというのに、私は何もすることができなかった!!
隠として剣士をサポートするどころか、守られて、みんなに怪我までさせてしまった……!
なんという情けなさ…!!
(でも、泣いている暇なんてない。すぐに人質達の手当てをしなければ)
そう分かっているのに、体がブルブルと震えて立ち上がることが出来なかった。
(あぁ、私はなんて無力なんだろう)
うずくまり、地面に爪を立てる咲。
それを見下ろしていた伊之助が、ギリッと刀を握り締めて言った。
「お前、そんなに悔しくて、そこまであの下弦の鬼を倒したいんだったら、なぜ剣士にならなかったんだ!この弱味噌が!」