第4章 わっしょい
片足を失いながらも、鬼殺の剣士を目指そうとする勇敢さ。
時折見せる、花が咲いたような可愛らしい笑顔。
煉獄家で引き取った後は、辛い訓練に泣き言一つ言わずに実直に取り組む意志の強さ。
いつしか杏寿郎は「母によく似た少女」ではなく「一人の女性」として咲に惹かれていったのだった。
まだ10歳の、自身の弟とほぼ年の変わらない少女に対してこの様な感情を抱いてしまったことに、少しも戸惑わなかった訳ではない。
何しろ自分は今年で16歳になる。
ほとんど大人と言っても差し支えないような年齢に達していたのだから。
だが、将来自分が妻を娶るとしたらこの女性以外にいないと、杏寿郎は直感的に感じていた。
もし君が俺の想いを受け入れてくれるのならば、俺の妻となり、ずっとこの家で暮らしていけばいい。
俺が君のことを誰よりも幸せにする。
二度と君に鬼を近づかせたりなんかしない。
杏寿郎はうなだれた咲の細い首を見下ろして、今まで何度言ってしまいそうになったか分からないそれらの言葉をまた、喉の奥へと飲み込んだ。
咲は優しい子だ。
きっと今自分がこの想いを伝えたら、困ってしまうだろう。
彼女が進まんとしている道を、この俺が邪魔する訳にはいかないのだ。