第4章 わっしょい
手の下の、震えている咲の背中がぐっとこわばるのを感じる。
こぼれ落ちる涙の合間に、ポツリと咲が言った。
「私が稀血のせいで……そのせいで家族は殺された……。私が鬼を引き寄せてしまったから……」
ボタボタと大粒の涙が落ちて、彼女の着物を濡らしていく。
哀れなほどに震えている咲の体を感じながら、杏寿郎は胸が張り裂けそうであった。
今まで彼女がこんな風に言うことは無かった。
ただひたすらに剣士を目指して黙々と修練に取り組んできた。
だが、その小さな胸の内ではずっと、自責の念に苛まれ続けてきたのだろう。
「君に非など何もない。悪いのは鬼だ」
そう言って杏寿郎は、今度は両腕で咲の体をしっかりと抱きしめた。
腕の中にすっぽりと収まった体は一瞬驚いたように動きを止めたが、すぐに小さな手が自身の着物にぎゅうとすがりついてくるのを感じた。
「うっ…うっ……」
漏れてくる悲痛な泣き声を聞きながら、杏寿郎は何度も何度も、その背中をさすり続けてやったのだった。
いつの間にか物思いにふけっていたらしい、と杏寿郎がふと視線を咲に向けると、同じタイミングで咲の方も杏寿郎を見上げたらしく、まっすぐに視線が合った。
大きな瞳が優しく細められ、ニコッと微笑んだ顔に、自身の胸の中に花が咲くような感覚を覚えた杏寿郎は、同じようににっこりと笑顔を浮かべた。
あぁ、ずっとこうして俺の隣で笑っていて欲しいと、杏寿郎は心の底から思ったのだった。