第4章 わっしょい
そうやってぼんやりと夜空を眺めていると、ふいに後ろから声をかけられた。
「咲」
振り返るとそこには、隊服を脱いでゆったりとした浴衣姿になった杏寿郎の姿があった。
普段の隊服姿とはまた違って、どことなく色気を感じさせる姿である。
「ここにいたのか。部屋に行ったが姿が見えなかったので、探してしまったぞ」
そう言って歩いてきた杏寿郎は、咲の隣に腰掛けるとニコッと笑って咲を見下ろした。
「それは失礼いたしました。何かご用でしたでしょうか?」
「いや何、別に用はない。だが久しぶりに会ったので、もっと話していたくてな」
その言葉に咲は嬉しくなり、杏寿郎の顔を見上げて微笑んだ。
月明かりに照らされた杏寿郎の顔は、昼間見せているハツラツとした表情とは一転して、とてもゆったりとして穏やかなものだった。
それからしばらくの間、杏寿郎と咲は他愛もないことを話して過ごした。
先日、不死川のところに届け物に行った時に食べたおはぎが美味しかったことなどを話す咲のことを、杏寿郎は「うん、うん」と頷きながら優しい眼差しで見下ろしている。
ふと会話が途切れた時、杏寿郎がしみじみとした口調になって言った。
「咲が隠になってから、もう一年が経つのだなぁ」
「そうですねぇ」
そう言われて、咲もまたこの一年のことをしみじみと思い出したのだった。