第4章 わっしょい
そんな風に、あまり良いとは言えない親子関係であったが、咲がこの屋敷にやってきてからは少し様子が変わったようだった。
咲達が庭に出て鍛錬をしていると、時折そんな三人の姿を廊下の端から槇寿郎が眺めていることがあった。
そしてある時ふと気が付くと、菓子が山盛りに入れられた鉢と、冷たい麦茶の入った湯呑が三つ、盆に乗せられて縁側にちょこんと置いてあったのだ。
煉獄家に使用人はいない。
だから、考えられるのは槇寿郎しかいない。
「まさか父上がこのようなことをしてくださるとは……」
杏寿郎と千寿郎が目を丸くしているのを見て咲は、こっそりと置いていった槇寿郎の後ろ姿を想像して胸がほっこりと温かくなるのだった。
そんな風な変化が見られてきたからこそ、「咲に無理をさせるな!」という発言も出てきたのであろう。
そして最初の山を超えればその後の変化は割と容易いようで、最初の内は気づかない間にこっそりと置いていくだけだった菓子を、いつの頃からか槇寿郎は堂々と渡してくるようになった。
「咲、あまり無理はするな。菓子でも食べて、休憩もしっかり取りなさい」
それがいつも芋けんぴだったものだから、「親子だなぁ」と咲は微笑ましくなるのだった。
咲と話している槇寿郎の姿を見て杏寿郎と千寿郎は、
「父上のあんなお顔は初めて見た。もしも娘がいたならば、あんな感じになっていたのだろうか?」
と、毎度毎度驚くのだった。