第4章 わっしょい
「むう、そうか」
何故か残念そうな顔をして、杏寿郎は二つ用意されていたタライの一つに足を突っ込む。
咲もその隣に腰掛けて、脚絆を解いた足をタライの水に浸けた。
疲れた足に、ひんやりとした水が心地よかった。
この体になってから、松葉杖で歩けるようになってもしばらくの間は、一人で入浴することは中々難しかった。
だが、最近ではすっかり一人での入浴にも慣れてきていたので、タライで足を洗うことなどは容易いと思ったのだ。
だが、左足を洗おうと体を前に傾けた途端、ぐらりと、思った以上に体が傾いた。
「わっ」
と、タライの中に頭から突っ込んでしまいそうになった時、横から伸びてきた太い腕が咲の体をガッシリと抱きとめた。
「どうやらまだ難しそうだな!遠慮しないで俺に任せるといい!」
「うぅ……」
情けないやら恥ずかしいやらで、咲はしょんぼりと肩を落とす。
そんな咲の足をパシャパシャと洗い始めながら杏寿郎が言った。
「落ち込む必要はない!君はどんどん出来ることが増えてきている。いずれこれも自分で出来るようになるさ」
そのハツラツとした勢いのある言葉とは裏腹に、とても優しい杏寿郎の手つきに、咲はコクンと頷いた。