第4章 わっしょい
「……さて、少し湿っぽくなってしまったが、何はともあれ腹が減ったな」
しんみりとした空気を吹き飛ばすようにして、杏寿郎が声を上げる。
それに呼応するように千寿郎も話し始めた。
「あ、兄上、お食事のご用意は出来ております。足すすぎを縁側に用意してありますので、咲さんもどうぞこちらへ」
千寿郎が、その少年らしいしなやかな体をテキパキと動かして、咲達を庭に案内してくれた。
玄関から庭に回ると、そこは広い日本庭園になっていて、千寿郎の言った通り、縁側の靴脱石(くつぬぎいし)の上には水を張った大きなタライが置かれていた。
「では、まず足を洗うことにしよう!千寿郎、ここはいいからお前は食事の準備をしておくれ」
「は、はいっ、兄上。手ぬぐいもそこに置いてありますので。それでは失礼します」
ペコリと頭を下げて、千寿郎は玄関の方へと戻っていった。
千寿郎を見送った後、ぐりんと杏寿郎が咲の方を振り返る。
「さぁ咲!疲れただろう、足を出すといい!」
「えっ!?いえいえ、とんでもありません!自分で洗います!!」
ここまでの道中の半分以上をおぶって来てもらった上に、足まで洗ってもらう訳にはいかないと思った咲は、ちぎれるかと思うほど首を横に振った。