第4章 わっしょい
槇寿郎はボロボロと涙をこぼし続けながら、咲の顔を見つめている。
その悲しみで潤んだ瞳を正面から見た咲は、杏寿郎から「母上は俺が幼い頃に亡くなった」と聞いた言葉を思い出した。
家族を、愛する者を失った悲しみ……。
鬼に家族を目の前で奪われた咲には、涙を流す槇寿郎の悲しみがまるで手に取るようによく分かった。
だから、たもとから手ぬぐいを取り出すと、そっと槇寿郎の頬を拭ってやったのだった。
「……っ!」
布が頬に触れる感触で、我に返ったらしい。
槇寿郎はすっと俯いた。
それから少しの間だけその体勢でいた後、すっくりと立ち上がる。
「……失礼した。道中疲れただろう、上がってゆっくり休みなさい」
そう言って槇寿郎は、出てきた時と同じように廊下をミシミシ言わせながら奥へと消えて行ったのだった。
「……む、驚かせてすまなかったな、咲。父上も少し驚かれたようだ」
杏寿郎が申し訳なさそうな顔をして言うのを見上げながら、咲はブンブンと顔を振った。
「いいえ、そんなこと。……瑠火さん、というのは煉獄さんのお母様のお名前ですか?」
「うむ、そうだ」
「そうですか……。お父上様は、奥様の事を本当に愛しておられたのですね」
そう言って涙ぐんだ咲を見下ろして、杏寿郎もまた、少しだけ泣きそうな笑顔を浮かべたのだった。