第4章 わっしょい
「今日からお世話になります兎田谷蔵 咲と申しま……」
と挨拶をしようとした時、唐突にガシッと両肩を掴まれた。
そのあまりの素早さと勢いにびっくりして、咲は顔を上げる。
だが不思議なことに、すごい勢いで掴まれたというのに少しも痛みは感じない。
感じるのは、包み込まれるような力強さだけだった。
目の前には、膝をついたせいで咲の顔を少し見上げるような格好になった槇寿郎の顔。
その顔は先ほど千寿郎が見せた表情とよく似ており、ポカンと口を開けて咲のことを見つめていた。
「えっ……と……?」
一体どうしたのだろうと咲が戸惑いの表情を浮かべたのとほぼ同時くらいに、槇寿郎の口がはくはくと震え始め、まるでしぼりだすような小さな声が聞こえた。
「瑠火……?」
見開かれた瞳に見る見るうちに涙が盛り上がってきて、キュッと上がっていた眉毛が、まるで叱られた子どものようにへにゃりと垂れ下がった。
「えっ!?」
ビックリして咲が声を上げた拍子に、ボロボロと大粒の涙が槇寿郎の頬を伝った。
その姿を見てギョッとしたのは咲だけではない。
隣にいた杏寿郎と千寿郎も、父親が突然見せたその姿に声も出ないほど驚いたらしかった。