第1章 異変
ようやく最後の鏡である。
深呼吸をしてそこを通った先に、目の前には立派なお城のような建物が現れた。
あたりは暗く、門にはいばらが絡みついていて触ると怪我をしてしまいそうだ。
「よく来たのう、待っておったぞ」
私はその声を聞くなり、少しびくりとした。
その声の主は、どう考えても目の前にいる小さな男性なのだが、あまりにもあの人に似ていたのだ。
すぐ側で夏目くんも一瞬目を潜めたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
それを見た彼は少し不思議そうにしていたが、すぐに可愛らしく笑みを浮かべる。
「ここはディアソムニア寮。悪いが寮長……、マレウスは連絡のあった会議に呼ばれておらんかったらしく、準備が出来ておらんでのう。代わりにわしが案内をするから、ついてくるが良いぞ」
その小さな身体よりもはるかに大きな上着を翻し、彼はいばらの門をくぐっていく。
私達もその後に続いて寮内に足を踏み入れた。
「自己紹介がまだじゃったな。わしは副寮長のリリア・ヴァンルージュじゃ。あと、この寮のことか。この寮は茨の魔女の高尚な精神に基づいておってな……」
歩きながら長々と語り始めたリリアさんの言葉を逃すまいと私はしっかり耳を傾ける。
話終わると彼はこちらを振り向き、苦笑いをした。
「ちと話しすぎたかのう。……他になにか聞きたい事があれば言っても良いぞ」
「特には無いかナ。聞きたいこと全部教えてくれたシ」
夏目くんが答えると、周りも頷いてそれを肯定した。
「それなら良かった。わしも案内のしがいがあったと言うもの」
にこりと笑ったリリアさんに私もつられて笑顔になると、彼もこちらに目線をくれた。
まるでアイドルのファンサービスのようだ。
ふと、あの『兎』たちを思い出す。
「大丈夫じゃよ。おぬしらは必ず帰れる」
私が余程寂しそうな顔をしていたのか、リリアさんは元気付けるようにそう言ってくれた。
ぺこりとお辞儀をして返すと、彼は優しい父親のような微笑みを浮かべた。