第1章 異変
その日私は、何故か奇妙なほどに疲労を感じていた。
今日も私は、いつも通りに授業を受けて皆のプロデュースをしていただけなのに。何故こんなにも体が鉛のように感じるのか。
どれだけ思考を巡らせたところで身に覚えがない以上、無駄な徒労にしかならなかった。
ただ、異常なほど疲れている。その現実だけは明確だった。
「どうしたんじゃ、あんずの嬢ちゃん」
不意に後ろから声をかけられ、うーっと微かな唸り声を上げながら振り向いた。
月明かりのない、闇夜をうつしたような髪を持ったその人は、私を見るなり驚いた顔をし、しかし直ぐに微笑んで言った。
「そんな状態で帰るのは危ないじゃろう。保健室ででも寝てきた方がよいと思うぞ」
実は、私もそうしようと思った。しかし、驚くことに保健室のベッドは全て埋まっており使用が出来なかった。
そのことを伝えると、彼は言った。
「それなら、我輩の棺桶を貸そうぞ。遠慮することはないぞい。寝心地も保証できる」
それでも、私は申し訳なくて首を横に振った。
すると先輩は言うのだった。まるで、幼い子供に諭すように。
「我輩も、いつも嬢ちゃんには世話になっておるじゃろう。お返しだと思っておくれ」
そこまで言われてしまっては仕方がない。
私は、申し出をありがたく受けることにした。