第8章 ※最初の夜
カタッ、という音で目を覚ました。……ここのところ碌に眠っていなかったとは言え、いつの間に眠ってしまったんだろう。
まさに失態もいい所だ。クリスも居ると言うのに、こんなあばら家でスヤスヤ寝こけてしまうなんて。
相手に気づかれない様、眠った体勢のまま辺りをうかがうと、どうやらブラックがクリスのベッド付近で何かしているらしい。
もし彼女に何かあったら、それこそ殺したって殺したりない。いざとなったら許されざる呪文も辞さない覚悟で、僕はブラックの行動を伺った。
ぼんやりとランプの明かりが彼女の寝顔を照らす中、ブラックは酒の入ったグラスを片手に、ただ“彼女の寝顔を楽しんでいる”だけに見えた。
――いや、そんなはずないと自答する。ブラックの手が彼女の前髪をかすめようとした瞬間、僕はベッドから飛び起きてブラックに杖を突きつけた。
「それ以上近づいてみろ、貴様を殺す」
「静かに。……杖を下げたまえ」
「うるさい!貴様に指図する権利はっ――!!」
「――……ん?」
その時、僕とブラックの声に反応したのか、クリスがぼんやり目を開けた。しかしまだ意識は半分夢の中の様で、焦点の合わない目で僕とブラックを見つめる。
「シリウス……?ドラコ……?」
「なんでもない、まだ夜中だ。寝ていても大丈夫だ」
「ああ……」
そう言いながら、ブラックがクリスの額を優しくなでると、クリスは安心したように微笑んで再び眠りに付いた。
それを見届けた後、ブラックが酒を片手にキッチンへ体を向けた。……と、同時に僕についてくる様に無言で指を曲げて合図をする。
まさかまた声を荒げてクリスを起こすわけにもいかないので、仕方なくそれについて行った。
ブラックはキッチン――と呼べるほど大したものじゃないが――を漁って、古いバタービールのビンを1本取り出した。
それをコップに注ぐと、僕の前に差し出す。ブラック自身は先ほど口にしていたグラスに、ブランデーと思われる液体を注ぎ足した。