第4章 ※たまにはシリアスに
17歳の少年には想像もつかないだろう、アズカバンの監獄という名実共に最悪の環境の中、自分がどんな思いで日々を過ごしていたかなんて。
復讐だけに縛られていた自分の心に、光を与えてくれた女の子がどれほど眩しく映ったか。
その少女が会うたびに、年を追うごとに、どんどん綺麗になっていく。それを目の当たりにしながらふつふつと自分の中に芽生えていく感情に、いったい何と言う名前をつければ良いのかシリウスすら分からなかった。
「それじゃあ、参考までに私からも質問させてくれ。君はクリスの何を好きになったんだ?」
「ぼっ、僕か?」
「ああ。純血主義で名高いマルフォイ家の当主が、ヴォルデモートを裏切ったほどだ。何か大層な理由があるんだろう?」
「ぼ、僕は……クリスの幼馴染で……」
「それは知っている」
「う、ううう生まれた時から一緒に居て……」
「それで?」
「だから、一緒に居るのが当たり前で……」
「それだけか?」
ランプの明かりだけが頼りの暗い室内でも、ハッキリと分かるくらいドラコはうろたえていた。必死に言葉を紡ぎ出そうとしているが、決定的なものは何も出てこないらしい。
沈黙が続く中、ドラコはそれまで床を見つめていた目を、突然キッとシリウスに向けた。
「べっ!別に人を好きになるのに理由なんて要らないだろう!!下らない!!!」
普段は青白いといって良いほど血色の悪い顔を、耳まで真っ赤にしてドラコが怒鳴った。その大声に反応して、クリスが小さく身じろいだ。
焦って反射的にクリスの方に目をやったが、起きる様子はなく、またすやすやと静かに寝息を立て始めた。
一瞬の沈黙の後、シリウスはつい大笑いしてしまった。
「……く、ははは、くははははは!!そ、そうだな、人を好きになるのに理由は要らない。確かにそうだ!ははははは!!」
「わっ、笑うな!!」
「いやいや、はぁ……とても有意義な会話が出来たよ。さて、明日も早い。そろそろ寝るとするか」
そう言って、シリウスはグラスに残っていたブランデーを一気に煽った。
氷が溶けて少し薄くなった酒は、これまで味わったことのない、えもいわれぬ極上の味がした。