第8章 暖かな夜
「…どこ行くの?」
「家だ。お前も来い」
問い掛けたシズクは彼の意外な返答に驚いた。
「…このままだと風邪をひく。ここからなら俺の家のほうが近い」
こちらが言い返す間もなくどんどん進んでしまうサスケ。雨宿りをさせてくれるつもりなのだろう、戸惑いつつもあとを追いかけた。
家に着くとサスケはシャワーと着替えを貸してくれた。ここまで来て断るのもおかしいと思い、シズクは言われた通りにした。ソファに座り彼の煎れたお茶を飲み温まる。
「色々ありがとう…ごめんね」
「なんで謝る?雨はお前のせいじゃないだろう」
何となく気が引けておとなしく座っていたシズクを不意にサスケが見やる。
「…服、少し大きかったな」
サイズなど合わなくとも貸してくれただけで有り難い。なのにしみじみとそう呟く彼に思わず和んだ。
「でも、あったかいよ」
にっこり笑って返すと、サスケは横を向き赤らめた頬を隠すように頭をタオルで覆った。そして唐突に試験の話題に戻す。
「俺は……負ける気はない。こんな所で負ける訳にはいかない」
独り言のように呟き、ちらっと視線を送ってくる。
「…お前もそうだろ?」
「うん…負けない。負けたくない」
勿論シズクもみすみす負ける気はない。自身を高められればもっとイタチの役にも立つだろう。
「そうだ。これ…作ってきたの」
雨ですっかり忘れていた。シズクは自分で作ったお守りをサスケに渡そうと森に行ったのだ。
「お守り。試験が上手くいきますように」
首から下げられるように長い紐を付けたお守りを手渡すと、サスケが驚いた顔をこちらに向ける。
「手作りだから不格好だけど」
少し曲がったその形にフッと頬を緩め、サスケは受け取ったお守りを見つめた。
「…ありがとう」