第14章 天下人の右腕は奥方の兄
最近の安土は比較的おだやかだ。
主君、信長様とあさひの祝言が終わって、西の国境の小競り合いも落ち着いた。
あさひが怪我を負った時は、どうなることかと肝を冷やしたが、後遺症もなく良くなっているようで、一安心だ。
今こうやって城内の見回りをしているが、城の雰囲気が丸くなったと、なんとなく肌で感じている。
政宗と家康が領内に戻って、寂しさ…いや静けさはあるが、泰平の世とは本来はこういうものなんだろう。
柔らかな風が髪を揺らす。
見回りが終わったら、ひと息つこうかと自室に向かう。
すると、三成がこちらに向かって来ていた。
『秀吉様、西の国境や新しい参加の領地の状況報告が届きました。』
『あぁ、そうか。目を通してから御舘様に報告しに行くことにしするか。』
俺は、三成を自室に招き入れ書簡に目を通した。
※
俺達の仕事は、戦ばかりじゃない。
戦で得た領地を整え、民の生活を整える。新しく治めさせた大名がきちんと政務をしているか、にも目を光らせなければならない。…どちらかと言えば、戦より骨が折れる。
彼奴みたいに姿を眩ませられればいいんだが…
そうもいかない。
『よし。天主に行くか。』
『はい。』
俺は三成と共に主君に報告に行く。
『あさひ様もいらっしゃいますかね?』
『たぶんなぁ。最近は、寝起きも共にされているからなぁ。』
『仲睦まじい事です。』
城内の至る所で逢瀬のようにするならば、いっそ天主にいてもらったほうがいい。…口が裂けても言えないが。
我が主君のあさひへの愛情は海よりも深く、空よりも高い。
…海は、よくわからねぇが、まぁ深いんだろう。
おしどり夫婦、深い絆、そのものなんだ。
だから、俺はお二人の側にいられることが幸せで、誇らしく思っている。
そんなことを考えながら、天主の階段を上る。
…ん?なんだ?
殺気立つような気配がした。
『なんでしょう、嫌な気配が致しますね。』
『あぁ。だな。』
三成と顔を見合わせながら足早に階段を上ると、声が聞こえた。
御舘様とあさひだ。
ちらりと聞こえた声色。
あ、これは不味いやつだ。
で俺は今、ここに来たことを一瞬で猛烈に後悔した。