第11章 同じ釜の飯を
ごくりと飲み干すように食べる秀吉は、ひきつる笑顔で信長に礼を言う。
『このような褒美、ありがとうございます。』
『うまいか?』
『はい。とても!』
『では、この握り飯も食え。』
『あ、えっ!』
大きい握り飯が皿にのる。
【あれ、信長様が握ったやつだな。】
誰もが思った。
『いただきます!…げほっ。』
「ふふっ。秀吉さん…」
『さすが、右腕よ。』
『光秀、完食か。』
『味がわからないからな。』
『少し、羨ましいぜ。』
『政宗、光秀。何だ?』
『『いえ、なにも。』』
ごほっ、げほっ。
「秀吉さん、お茶飲む?」
『あぁ、頼む。』
ある意味賑やかな昼は過ぎて、信長が茶をたて茶屋の新作を皆で食べ始める。
いつもなら甘いと渋る家康も、甘味が苦手な秀吉も。
その日に限っては、用意した全てをたいらげた。
『同じ釜の飯を食う、良いことだった。
またやるぞ、あさひ。』
『えっ!』
『なんだ、秀吉。』
『あ、いえ。楽しみにしております。』
『ふふっ。』
『くっ。』
光秀、政宗、家康の肩が震えている。
「今度は失敗しないようにしましょうね。」
【やっぱり、失敗だったんだ。】
誰もがあさひの一言で、聞くに聞けない思いが確信に変わる。
『あぁ、任せろ。』
信長は、しゅるりとたすき掛けを外した。
襖から入る秋風が、信長の髪を揺らし、額に滲んだ汗が夕陽できらりと光る。
あさひは、満足気な信長の横顔を優しく見守るのだった。
完