第8章 今日も明日も、明後日も
その日も、いつもと同じように軍議に末席から参加していた。
…といっても、家康と政宗が国に戻っているから、広間には信長様、秀吉さん、光秀さん、三成くんと私だけ。
廊下には咲が控えてくれている。
『もう信長様の正室になるのだから、』と上座を促されるけれど、光秀さんの指南も続いてるし、まだまだ知らないことばかり。
末席で聞いている方が安心すると、頑なにこの場所にいた。
軍議が終わりになる頃合いを見て、お茶とお茶菓子を出すのは私の仕事。
今日も静かに席を立ち上がると、襖の外に控える咲と準備を始めた。
「今日も暑いね!」
『もうじき本格的な夏になりましょう。まだまだ暑さは続きますよ。』
「はぁ、髪上げちゃおっかな。」
私は手慣れた手付きで、おろしていた髪を束ね頭の上にまとめた。
現代で言うお団子へア。
『まぁ!あさひ様!そんなに肌を出されては!』
「まぁーた始まった。お咲のお姫様じゃない発言。
お咲は知らないかもしれないけど、この髪型、何回かやってるよ? なにも言われてないから大丈夫。」
『そう言われましても…』
「少し涼しくなるし、楽だから! ねっ!」
『はぁ…。…!!』
ため息混じりに認めてくれた咲が、また目を見開いて顔を赤らめている。
「…、だから大丈夫だってば! どうしたの?
お茶、運ぼう? お咲はお菓子ね。」
『あさひ様! やはりやめましょう?
髪を下ろしましょう?』
「なんでよ。大丈夫。ほら、いくよ!」
『…っ、あさひ様!お待ちください!…もぉ。』
(知りませんよ!見られても!)
咲の話をよく聞いておけば、と後悔したのはそれから数刻も経たずに訪れた。
※
「お茶をお持ちしました。今日も暑いので水だしにしてみました。」
『おぉ、ありがとう。』
「うん。秀吉さん、お菓子も甘過ぎない羊羮だよ。
食べてみてね。」
『あさひ様のお気遣いは、見習いたいものです。
ありがとう…、ございます。』
『あぁ、三成。あさひはよく気が利くからな。
…どうした?三成、なに見て… あっ!』
二人の会話を聞きながら、光秀と信長はニヤリと笑った。