第17章 唐物の赤い壺の秘密 後編
「あ、うん。大丈夫。転んだりもしてないしね。」
『そう。じゃあ、俺は大名の制圧の準備と策の確認をしてきます。秀吉さん、いいですか?…三成。お前も。』
『あぁ。では、失礼します。あさひ、信長様に壺を割ったことやら諸々、謝れよ。』
『あさひ様、御武運を。』
「えっ、ちょっと!」
『じゃあ、俺は光秀公の忍に挨拶でもしてこようかな。お二人様、ごゆっくり。』
「さ、佐助くん?」
パタパタと全員が天守を去り、信長様と二人になった。
吹き込む風は、少しだけ夜の香りがする。
「信長…さま?」
『ふっ、貴様がこの壺を割らねば、間者の存在は知り得なかったからな。褒美に、今は、抱かぬ。膝を貸せ。』
私の膝り頭を預けて、ごろりと横たわる、
『諸々の仕置きは、宴の後だ。』
私の髪を指で遊んだ信長様は、ちょっとだけ髪の毛を引っ張った。距離が近付いて、私たちはうっすらと顔を覗かせた月に見られながらキスをした。
※
その後の宴は、何時ものように盛り上がった。
美味しい政宗の料理を食べて、皆で黄金色に輝く絹糸を触る。
私は秀吉さんの小言を聞きながら、からかう光秀さんの相手をする。
気づけば政宗は寝ていて、その隣で、ため息混じりに家康がお酒を飲んでいた。
すると、信長様が佐助くんを呼んで、何だかこそこそと話し込む。ニヤリと笑った信長様は、ちらっと秀吉さんを見た。
秀吉さんは、気づいてなかったけれど。
そして、私は信長様に抱かれて中座する。
『我奥は些か仕置きが必要でな。皆、ゆるりと楽しめ。』
『『ははっ。』』
『信長公、宿泊の許可までありがとうございます。
あさひさん、じゃあまた。』
皆に見送られ、広間を出る。
存在感を増した大きな月が見えた。
信長様の首周りに抱きついて、うなじにキスをしてみよう。
きっと、少しだけ赤らんだ顔で叱って。そして愛してくれるはずだから。
※
あれから、あの壺は私の部屋に、今も飾られている。
二重底も佐助くんが修理して、外すための細長い針は私の裁縫箱の中にある。
表向きは、あれから私が気に入ったことになっているけれど…。
二重底の中には、きらきら光る金平糖。
今日も、政務合間の息抜きと言って、厠の後に魔王様がやってくる。
そう、だから今日も
赤い壺の秘密は絶対に内緒。
完
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