第7章 文化祭という名の…
征ちゃんがあと数センチという所まできていた。観客からのキャー!という黄色い声と、ヤメロー!という図太い声が途絶えない。こんな時でも、さすが征ちゃん、すごい人気者だねって思ってしまった自分が嫌になった。征ちゃんの綺麗なオッドアイに全て見透かされてしまいそうで、あたしはギュっと眼を瞑った。そしてその瞬間、あたしの手から感触がなくなった。封筒を取られたと気付くまでに、数秒を要した。
『ちょ、征ちゃんだめ!それは…それだけはぁぁぁ!』
「朱音、ここでは互いに苗字で呼び合おうと言ったじゃないか」
『それは征ちゃ…赤司君もでしょ!ってだからダメだって!』
「騒がしいな、涼太捕まえろ」
「任せるッス!」
慌てていたあたしは、あっという間に涼君に捕まった。捕まってしまえばそこで何も出来なくなった。男女の力の差はありすぎる。
「朱音っち、良い匂いがするッス!」
『こんな時に何言ってんの!?』
犬みたいに鼻をあたしにスンスンと擦り付けてくる涼君。ちょ、今そういうのまじでいらないから。すると帝光の女の子からは、イヤー!という悲鳴が聞こえ、鈴城の男子と女子からは、黄瀬コノヤロー!死ね!と罵声が飛ぶ。鈴城の皆…!あたしの味方でいてくれてありがとう…と感動に染まっていると、そこに征ちゃんの凛とした声が響いた。
「涼太、僕は捕まえてくれとだけ頼んだつもりだったが?まさか僕の言うことに…」
とだけ言うと涼君を見る。すると涼君はあたしから体を離した。とりあえすホッとしたのだが、相変わらずあたしの腕は涼君にがっちりと掴まれていて、身動きが取れなかった。
「悪く思わないでくれ、朱音。本来ならこんな手荒な真似はしたくないんだ。朱音なら分かるだろう」
『だったら今すぐこの手を離して』
「それは無理だ。僕の言うことは?」
「「「「「「「「「ぜったーい!」」」」」」」」
征ちゃんが会場に向かって変な質問をしたかと思うと、全生徒から息の合った答えが返ってきた。もちろん、鈴城からも。というか何故知っているんだ。宗教か何かなの?
「それでは僕が代読させてもらおう」
あたしには分かった。征ちゃんはこの状況をかなり楽しんでいるんだと。