第6章 合宿
監督に鈴城との練習試合について申請した。監督は少し考えると分かったと一言で了承した。部屋に帰って風呂の準備をしようと思ってホールを横切ると彼女がいた。僕が目の前に座っても気が付かない。どうやら集中しているみたいだ。声をかけようと思ってやめた。彼女の表情がコロコロ変わって面白いと思ったから。いつもの凛とした表情や、心をくすぐる笑顔だけでなく、真剣に考えている表情、悩んでいる表情、何か閃いた表情。彼女はこんなにもいろいろな表情が出来るのか。
『!あ、かし君!!?』
彼女の驚いた声で僕の意識も帰ってくる。暫く話した後に本題へと進めた。
「これ、文化祭の企画か?」
『あ、うん。こういうのはちゃんと目の前で話した方がいいと思って。けど大会前だから余計な時間は取りたくないでしょ?だから今日中に仕上げようと思ってね』
彼女の手書きの企画書にゆっくりと眼を通す。
「さすが、だね。ここまで完璧に仕上げられるのは君だけだよ。全く、僕の右腕に欲しいくらいだ」
『赤司君の右腕になったら面白そうが反面、つまらなさそうが反面かな』
「…どうして?」
『まず前者については赤司君の思っている通りでいいよ。こんなに意見が合う人なんて滅多にいないからね。それで、後者について』
僕の今日一番の興味だ。彼女の言葉に期待をする。きっと僕の満足する答えが返ってくるはずだ。
『簡単なことだけどね。あたし、赤司君とは対等でいたいんだ』
ここまで言えば分かるよね、という笑顔を僕に向ける。そして僕は理解した。彼女と対等であるということは、僕と対して同等の発言が許される。僕の右腕となれば、必然的に僕は彼女の上に立つ。そうなってしまえば、彼女の思考そのものが僕を支えるためだけに存在することになる。もし、僕らの意見が異なる時が来れば、彼女は同時に異論の許可を剥奪されてしまう。そうなれば僕も彼女の意見を聞くことは出来ない。