第6章 合宿
『帝光はどう?楽しい?』
「楽しいですよ。何よりもバスケが出来ますから」
『あははっ、テツ君らしいね』
僕には何故彼女が帝光に来なかったのかが分かる。帝光は勝つことが全て。ここでは彼女の思うバスケは出来ない。気付いたころにはもう別々の中学校に通っていたのだが。
「やっぱり凄いですね、朱音さんは。2年せいで主将で監督で生徒会長だなんて」
『それを言うなら赤司君もでしょ?』
「確かに赤司君も凄いですが、帝光には監督は別にいますよ」
ありがとうと笑う彼女は昔と何も変わっていなかった。
『けど、テツ君がまだバスケを続けていてくれて、本当に良かった。あたし、テツ君がバスケをしている姿、昔から好きなんだ』
彼女の言葉に胸が高鳴る。朱音さんが僕を…好き?
『いつも真面目に努力をして、少しでも上達すると嬉しそうに笑って。テツ君を見ているとあたしも頑張ろうって思えたんだ。だから、これからも頑張ってね!』
ここで冷静になる。彼女が好きなのは僕じゃなくて、バスケをしている僕だ。僕が僕であることには変わりはないが、バスケをしていない僕は用済みだ。僕は彼女に僕自身を好きになってもらいたい。じゃあそろそろ休憩終わるからと言って彼女は戻って行った。昔は僕の方が小さかったのに比べ、今ではもう僕の方が大きい。いつの間にか小さくなった背中を見届け、僕も自分の練習に戻ったのだった。