第6章 合宿
「どういうことも何も、僕と朱音さんは同じ小学校でしたから。通っていたバスケクラブも一緒でした」
ただ、それだけですと伝えると何故言わなかったのだとまたまた予想していた言葉が出てきた。聞かれなかったからと答えると、今日の練習メニューはテツヤだけ5倍にしようと悪魔の囁きが聞こえた。そしてその反応を見て、黄瀬君が一言。
「そう言えば俺、朱音っちを好きになったッス!彼女は俺がもらうつもりなんで、誰も手出しをしないでほしいッス!」
「はぁ!?どういうことだ、黄瀬!」
「言葉通りッスよ。俺は相手が誰でも朱音っちだけは譲るきはないッス」
「…上等だ、黄瀬」
「悪いがその勝負、俺も乗らせてもらうのだよ」
「ごめーん、俺も~」
4人の視線がバチバチと交じり合う中、赤司君だけは遠巻きに見ていた。
「…赤司君は参加しなくていいんですか」
「なあテツヤ。僕は彼女のことが好きだと思うか?この僕が」
「…違うんですか」
「…僕にも分からないんだ。今まで恋というものをしたことがないからね。テツヤはどうなんだ?」
「僕は…」
小学校高学年、初めて朱音さんと同じクラスになった。中学年から始めたバスケットクラブで彼女を初めて見た。そして目を奪われた。彼女のしぐさに、彼女のプレーに。話しかけれるほど積極的でもなかったし、それに僕なんかが相手にされるわけがなかった。だからいつも遠くで彼女を見ているだけだった。
『黒子テツヤ君だよね?あたし、若槻朱音。同じバスケクラブなんだけど、分かるかな?』
彼女は僕のことを見ててくれた。それがたまらなく嬉しかった。それから一緒に過ごしていく中で、僕は心まで奪われてしまった。彼女の優しくて強い思いは、僕を簡単に魅了した。