第6章 合宿
その後はたまに会話をしながらひたすら走った。徐々に自分の息が乱れてきたことが分かる。だがやめるわけにはいかない。彼女は俺と同じスピードで、俺よりも長く走っているのに息を一つも乱してはいない。そんな彼女に負けるわけにはいかなかった。
『黄瀬君』
ふと声をかけられる。
『あたし、次で終わりにするよ。でね、大きなお世話かもしれないけど、残り半周は少しだけ肘を伸ばしてつま先を意識して走ってみない?騙されたと思って、ね?』
不審に思ったが、別にそれぐらい何ともないと思い、いいッスよと伝え、彼女に言われた通りにした。すると少しだけ走った時、違和感を感じた。悪くはない、良い違和感。とても走りやすいのだ。全身の力が抜け、余計な負担が減ったような。よって呼吸も楽になっていくのが分かった。旅館の前になるとペースを落としてクールダウンを始める。どうだった?と聞かれ思ったことを伝えた。
『そっか!黄瀬君は体が大きいんだから、もっとその体を十分に使うべきだよ。その走り方だったら腕がいつもより早く伸びて反応速度も短縮できるし、つま先に意識を向ければ相手に抜かれることも少なくなると思うよ。ま、黄瀬君がやりたいようにやればいいけどね。ただの戯言ってことで』
息は乱していないものの、流れ出る汗を腕で拭いながら話してくれた。
「す…すげーッス!めっちゃ走りやすかったッス!なんかこう…言葉では言い表せないけど、全身の力が抜けていくような!とにかく凄かったッス!走り姿だけでそこまで分かるなんて!」
すると、そうでもないよと照れたように笑った。
ドキっ
…ドキ?え?何?よく分からない感情が現れた。これが何か分からなかったけど、とにかく彼女の顔が見れなくなっていた。