第6章 合宿
合宿一日目が終わろうとしていた。ここには俺の顔目当てで群がってくる女の子もいない。そして大好きなバスケに没頭できる。俺はこの合宿に非常に満足していた。
時刻は今、夜の9時を過ぎた。本来ならまだ学校に残ってバスケをしている。体が疼いて仕方なかったが、体育館はもう閉められており、もう今日は使えない。仕方なく走ることにした俺は、ランニングシューズに履き替え、旅館の外に出て怪我を防止するために柔軟を始めた。
暫く柔軟を行い、さあ走るぞと思って道路に出ると、月の光を浴びながら走っている女の子の姿が見えた。彼女は若槻サン。青峰っちが惚れた人。あ、紫原っちもか。そして赤司っちも。正直赤司っちともあろう人が惚れるだなんて、もの凄く驚いたと同時に、もの凄く興味を持った。そして彼女は俺に気が付いた。
『あれ?あなたは…』
「どもッス。帝光中の黄瀬涼太ッス。いつから走ってんスか?」
俺が走り出したと同時に、彼女は少しスピードを落としてくれた。その間に彼女の横に行く。俺が追いついたのを確認すると、スピードが徐々に上がっていった。
『あたしは若槻朱音。うーんと、20分くらい前かな?今日はいろいろ反省点多かったからさ』
何を反省する部分があるのだろうか。彼女はいくら俺が頑張っても勝てない青峰っちに勝ったのだ。そんな俺の表情を読み取ったのかは知らないが、彼女はクスリと笑うと言葉を続けた。
『青峰君のバスケの将来をあたしが潰してしまいかけたからさ。結果的には上手くいったようだけど、運任せなことしちゃったから』
横にいる彼女を見ると、何とも言えなさそうな切ない表情をしていた。俺には意味が分からなかったけど、赤司っちが言っていた彼女は頭がいい、ということを思い出して考えるのをやめた。
『黄瀬君は何で走ってるの?』
「俺はただ体を動かしたかったんス。今日の試合でも赤司っちたちに比べれば一番出番少なかったし、体力有り余って寝れなさそうだから」
そう言うと、彼女は嬉しそうに笑う。本当にバスケが大好きなんだね、と。