第6章 合宿
『答えはライバル。いくら自分が上手くなったとしても、それを発揮するだけの力量を持つ相手がいないと、実感できない。それに、あの人には負けたくないって思うだけで、自然と努力もする。青峰君にはそれがいなかった。ううん、いなくなった。彼はこの先、何の為にバスケをやっているか分からなくなる時が来ると思う。大好きだから始めたバスケがつまらなくなる時が来ると思うの。だからあたしはあたしをライバルとして見てくれればいいなって思ったけど…それは失敗だったみたい』
凜子「何で?青峰はすごく楽しそうにやってたじゃん!」
気付いてしまったから。彼も、あたしも。
『1on1ならいくらでも勝負が出来る。けど、彼が求めているのは違うんだよ。彼が求めている相手は、ゲームの中におけるコート上のライバル。あたしをいくら認めてくれても、それは叶わないことだから』
茉実「それなら…朱音も?」
『え?』
茉実「朱音もバスケ、つまんない?ライバルがいないから、嫌いになっちゃうの?」
あたしは茉実を抱きしめる。いつもはへらへらしている茉実が泣きそうだった。
『何馬鹿なこと言ってるの。あたしは今、すっごく楽しいよ。この中学で、このメンバーでバスケをしている今が』
捺美「でも…」
『あたしは確かにバスケは大好きだけど、一人でやるバスケなんて、バスケじゃないと思ってるよ。みんなで一丸となってプレイするバスケが大好きなの。青峰君もそうだとよかったんだけど、彼が入ったチームは百戦百勝が絶対理念の帝光中だから。特に彼らみたいにキセキの世代とまで呼ばれている天才は、チームプレイじゃなくて個人技を意識してしまう。今はまだ才能が皆開花していないからいいけど、全員の才能が開花してしまえば、帝光からチームは消える。あたしはそうはなりたくないんだ』
だからそんな顔しないで、一緒に強くなろう?というと、皆は久しぶりに見せた笑顔で頷いてくれたのだった。
そして同時に、例え理由があたしに勝つためでもいい。とにかく青峰君がもう一度バスケを好きになってくれるのを願って、旅館へと歩いていった。