第6章 合宿
あーやべぇ。マジで強ェわ。いつの間にかさつきが用意してくれていた正の字が書かれた紙を見る。若槻の名前の下には正の字が二つ。対して俺の名前の下には正の字どころか線も一本もない。最近になって練習以外に乱した覚えがない息を、必死に落ち着かせる。そして、ニヤける口元を抑える。
「やべー…こんな奴がまだいたのかよ。これだからバスケはやめらんねェ」
『ふふっ…それは褒め言葉として受け取ってもいいのかな?さあ、最後のOFだよ』
俺はボールを持ち直す。そして若槻へ。もう一度俺の手にボールが収まる。俺の呼吸音と若槻の呼吸音しか聞こえない。気持ちがいい。久しぶりに感じるこの気持ち。久しぶりに全力を出すこの爽快感。
「つくづくお前が女に産まれてきたことを恨むぜ」
『つくづくあんたが男に産まれてきたことを恨むね』
若槻と同じ台詞を言ったのだと分かった。声が被ったのにも関わらず、ほとんど聞き取れたのだから。
一気に右へ加速。もちろん若槻は反応する。からのレッグスルーを入れ、一歩下がる。ボールをフリーにさせたように見せるが、若槻の手が反応したとこでボールを掴み、抜こうと試みるがそれでもマークは外せない。フォームレスシュートは使えないこともないが、ジャンプ力が男子以上にある若槻相手では、今の距離じゃまだ効果のある技は出せない。せめてもっと近くに行かなければ…いくらスピードを上げても振り切れない。いくらターンを入れても撒けない。いくらフェイクを入れても引っかからない。
そんな時だった
『!…っ』
床に落ちた汗によって一瞬若槻の体制が崩れる。もうチャンスはここしかねェ。一気にスピードを加速して、ゴールへ向かう。スピードを落としたら取られる。ちょっと卑怯と言われるやり方だが、これは勝負だ。俺はその場で強く足を踏み込み、ダンクシュートを決めた。