第19章 あたし達は大人になった
父「征十郎君の良さは私達家族もよく分かっている。朱音が君の事を心の底から好きだという事も。けどやはり早すぎないか?智也でさえもやっと今年結婚だ。別に比較するつもりもないが、もう少し待ってみても…」
「僕は朱音さんと家族を作りたいんです。僕にはあまり家族という思い出がありません。母を早くに亡くし、父も仕事が忙しくて僕は見知らぬ使用人に育てられてきました。けどそこで朱音さんに出会った」
僕の言葉を真剣に聞いてくれる。この場所は僕にとって居心地がいい。
「朱音さんは純粋に人を愛していました。その時は情けない話、どうして他人のためにそこまで出来るんだろうと思った事をまだ覚えています。けど答えはすぐにでました。朱音さんは優しい」
『征ちゃん…』
「初めて僕がこの家にお邪魔した時、家族愛を感じました。そして僕も、朱音さんと…朱音とこんな家族を作りたいと」
美樹「あの…その気持ちわかります。私も初めてこの家にお邪魔した時にそう思いました。この家は愛に溢れています」
『お父さん、お母さん。あのね、あたしは結婚したらこの家を出て行くことになる。だけど2人の事が心配だって言ったら、征ちゃんは真っ先に2人の事を考えてくれたんだよ』
「僕達はこの近くのマンションに住もうと考えています。それならもし何かあってもすぐに対応できる。僕だって父の事が心配ですから」
実を言えばさっきの朱音と父上の言葉は聞こえていた。父上が僕の事を考えてくれていたなんて。朱音が僕達の事をそこまで考えてくれていたなんて。
父「…何も反対はしないさ。2人とももう立派な成人になった事だし、互いに就職もしている。その上近くに住んでくれるなんて願ったり叶ったりの話だ。ただ私は2人の気持ちを確かめたかっただけだよ。征十郎君、朱音の事、頼んだよ」
母「征十郎君なら安心だわ。朱音、何かあったらすぐに言いなさいね」
兄「俺は最初お前の事嫌いだったけどな、今では認めてやるよ。征十郎、お前になら朱音を任せられる」
「ありがとうございます!必ず朱音さんを幸せにしてみせます!」
『ありがとうございます!』
僕と朱音は2人して顔を見合わせて笑った。