第19章 あたし達は大人になった
『征十郎さん…いえ、征ちゃんはとても優しい人です。中学の頃はその強さ故にちょっと荒んでた時期もありました。けど高校に入り仲間の大切さを感じ、今では良き友がたくさん存在しています。そして、何より周りを大切にしてくれます』
赤司父「…征十郎から私の話を聞いた事は?」
『正直な話、あまりありません。あたしが聞いても忙しい人だからとしか答えてくれませんでした』
お父さんは悲しそうな声でそうか、と呟く。その横顔があまりにも征ちゃんに似ていたので、少しドキリとした。
赤司父「征十郎が物心つく前に妻が死んでしまってね。今まで子供なんて育てた事も無ければ聞く相手もいない。情けない話、征十郎をほったらかしにしてしまったんだ。そのくせ勝者が全てだ、などと口を酸っぱくしてよく言ったモノだと恥ずかしくなる。征十郎はその考えだけをしっかりと受け継ぎ、あまり笑わなくなった」
懐から何かを取り出したと思うと、あたしに見せてくれた。それはお母さんとお父さん、征ちゃんとが映ってる写真だった。まだ1歳と数か月だと思わせる征ちゃんの表情は、とても元気が良さそうな笑顔だった。
赤司父「もう随分昔の写真だ。私はもう正直征十郎のそのような顔を見る事を諦めていた。だが中学2年になってからというもの、少しだけ表情が柔らかくなった。使用人に聞けば朱音ちゃん、君に出会ってからだと言う。はは、情けない話だろう。征十郎本人には聞けなかったんだ」
あたしが初めて会った征ちゃんは、すでに笑っていた。だからあたしは昔の征ちゃんを知らない。
赤司父「征十郎を変えてくれたのは紛れもなく君だ。本当に感謝している。これからも息子の事、頼めるかい?」
『あたしは何もしていませんよ。けどその頼みならば喜んでお受けします。ですが、あたしからも一言良いですか?』
赤司父「あぁ、言ってくれ」
『征ちゃんはお父さんの事、とても心配されています。そして今日話してみて確信しました。お父さんと征ちゃんは凄く似ています。互いの事を大切に思ってはいるけど、その不器用さ故に何も出来ない。あたしにはそう見えます』
赤司父「私と征十郎が似ている…?」