第19章 あたし達は大人になった
『これは…ゆ、びわ…?』
「結婚しよう、朱音」
朱音は目を見開き、僕と指輪を交互に見る。そして次第にその目から涙が溢れていきた。
「朱音、僕は君を心から愛している。それこそ僕の一生を全て君に捧げてもいいくらいにね。朱音の人生だ、朱音が自分で決めればいい。けど僕にも共有させてくれないか?僕と一緒に新しい家族として暮らそう」
『あ、あたし…』
朱音からの返事を待つ。断られるのではないか、そんな不安が頭の中を徐々に支配していく。
『あたし、凄く嬉しい。あたしだって征ちゃんと一緒にいたい。けど不安もある。親の元から離れて自分達だけで暮らすって事でしょ?もちろん経済面での不安もあるけど、それ以上に両親を近くで見てあげれない事に不安を感じるの』
「両親を?」
『お兄ちゃんも今付き合ってる人ともうすぐ結婚するんだって。お兄ちゃんも家を離れてその人と2人で暮らすみたいで。もしあたしも出て行っちゃったらあの家にはお父さんとお母さんが2人になってしまう。もう2人とも年だし、心配で…』
「もちろんその事については配慮はするよ。僕だって父上の事が心配だからね。なるべくこちらに近い所で住むつもりだ。それに智也さんだって朱音と離れたくないだろうから、なるべく近くに住むはずだ」
『ふふっ、それもそうかも』
僕は必死に理由を探していた。内容は本心だが、朱音に断られたくなかったのだ。何とも情けない事か。
『そうだね。あたし、前に花帆に言われたんだ。朱音は周りの事ばかり気にしすぎだって』
「相原に?」
『うん。だから今回は我が儘になってみる。あたしを征ちゃんのお嫁さんにしてください』
僕はたまらなくなり朱音を抱きしめた。そして何回も名前を呼ぶ。
「朱音、好きだ。愛してる」
『あたしも愛してるよ、征ちゃん』
その夜、初めて僕達は体を交えた。互いに初めての行為だった事もありなかなかスムーズにはいかなかったが、初めて1つになれた時僕は今までにない喜びを感じたのだった。