第19章 あたし達は大人になった
使用人「お帰りなさいませ、征十郎様。ようこそいらっしゃいました、朱音様」
『こ、こんばんはー…』
「今日は朱音が泊まる。着物の用意をしといてくれ」
使用人「かしこまりました」
「…父上は?」
使用人「明日の朝には帰宅なされます。ご用件がおありでしたら、私が伝えておきますが」
「そうか。では明日大事な話がありますと伝えておいてくれ。行くよ、朱音」
征ちゃんのお父さん。あたしは何回か遊びに来た征ちゃんの家で、使用人さん以外見た事がない。いや、正確に言えば、写真はある。幼い頃の征ちゃんと、綺麗に微笑む女征ちゃんのお母さんの写真。
征ちゃんのお母さんは征ちゃんが物心つく前に亡くなったそうだ。だから写真はこれしかないのだと言う。そしてお父さんとも仲が悪いわけではないが、忙しいお父さんと顔を合わせる事は稀だと教えてくれた。
現在夜10時過ぎ。部屋に着いた瞬間征ちゃんに抱きしめられた。着物から私服に着替えた時にお風呂に入ってて良かったと思う。汗臭くなってたら嫌だし。
『どうしたの?』
「君に触れたくなった」
征ちゃんはゆっくりあたしを離し、優しく口づけをしてくれる。征ちゃんは時々こうして甘えてくる。いつもは凛としている征ちゃんのこんな姿を見るのがあたしだけだと思うと、やっぱり特別なんだなって嬉しくなる。
「大事な話がある、そう言っただろう」
『うん。どんな話?』
「僕達は今日大人になった。それにもう、お互いに独立している」
『うん。それがどうしたの?』
征ちゃんは昔このブレスレットをくれた時みたいに、机の中からある箱を取り出してあたしにくれた。断りを入れてからゆっくりと開けると、そこには驚くべきものが入っていた。