第19章 あたし達は大人になった
式そのものはあっという間に終わり、各中学に分かれての同窓会も終わった。愛海にも久しぶりに会い、あたしはとても満足する成人式を迎える事が出来たのだ。
そして今は征ちゃんと一緒に歩いている。重かった着物を脱ぎ、私服へと変化した征ちゃんは凄くカッコいい。
『征ちゃん、次の対戦はいつ?』
「明後日だよ。だから今日はゆっくり時間がある」
征ちゃんは高校卒業後、プロの棋士になった。昔から将棋が強い事は知ってたけど、何でも棋士の世界でも10年、いや50年に1人の逸材だと言われるくらいだ。
あたし達は今日久しぶりに会ったかつてのチームメイトであり、親友の話を互いにする。と言ってもキセキの世代はほとんどが東京にいるし、話す事は鈴城の話ばかりになってしまう。
ちなみに真ちゃんは医者を目指し大学へ進学、涼君はモデル活動に専念し、大ちゃんは運動神経と有り余った体力を活かすために警察、あっ君はお菓子大好きなためパティシエ、テツ君は面倒見の良さを活かして保育士になるべく専門学校に進学、さつきは経済の大学に進学し今でもバスケのマネージャーをしている。
「朱音」
皆の事を考えていると、突然征ちゃんに呼ばれた。そして足を止める。
『どうしたの?』
「大事な話がある。今から僕の家に来れるか?」
『?うん』
お母さんに連絡をし、征ちゃんの家に寄るから遅くなると伝える。だけど征ちゃんに通話中の携帯を取られた。
「もしもし、征十郎です。…はい、その事なんですが、今晩朱音さんをうちに泊めても大丈夫でしょうか。…はい、はい…こんばんは、征十郎です」
どうやらお父さんに変わったようだ。って、え!?あたし今日征ちゃんの家に泊まるの!?あたふたしているあたしに少し微笑むと、征ちゃんは真剣な表情をした。
「お願いします。大事な話があるんです。明日、必ず朱音さんを連れてそちらへ伺います。…はい…ありがとうございます。では、失礼します」
征ちゃんは画面に触れ通話を終了した。
「…じゃあ行こうか」
自然と繋がれた手から感じた征ちゃんのよく動いている心臓は、なんだかあたしまで緊張させた。冬である今、冷たいはずの2人の手は、バスケをしている時みたいに発熱していた。