第19章 あたし達は大人になった
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『征ちゃん…』
「…そんな顔をしないでくれ。どっちの結果になってもこれは変わらない」
『…そうだね』
勝っても負けてもこうなる事は変わらなかった。勝っても征ちゃんは喜ばない。それが当たり前だったから。負けても征ちゃんは喜ばない。それが悔しかったから。あたしには征ちゃんを助けてあげる事が出来なかったのだ。
「朱音…君が今何を思っているかは僕には分かる。だからこそもう一度伝えよう。朱音、僕は君が好きだ。世界でただ1人、心から愛している。僕と付き合ってくれ」
『…分かるんなら何でそんな事言うの?あたしは…』
「僕はすでに君に助けられている。何度も何度も。そして今回もだ。僕は君がいてくれたからここに立っていられる。アイツらと道を外さずに進んでいる。勝者が決定した今でもアイツらと繋がっていられるんだ。それも全部、君が教えてくれた事だよ」
『征ちゃ…』
あたしは泣いていた。あたしにとって征ちゃんが心の支えになっていてくれたように、あたしも征ちゃんの支えになれていたんだ。
「泣かないでくれ、朱音。泣き顔の君から返事を聞きたくはない」
あたしは目に溜まった涙をジャージの袖で拭う。そしてにっこりと笑い、征ちゃんと向き合った。
『あたしも征ちゃんが好き。喜んでお付き合いいたします』
征ちゃんはゆっくりと口づけをした。
あたし達は、恋人同士になったのだ。そしてもうそれを隠す必要もないと言った征ちゃんは、表彰式が行われた後のインタビューであたし達の交際を発表した。高校生とは言えあたし達はちょっとした有名人。バスケ界にはあっという間に広がった。