第6章 合宿
『事が冷めるのを待つってのも大事だけどさ、それは本当に一人でしか戦えない人の最終手段だと思うの』
「だから私は…」
『さっきも言ったでしょ?あなたは一人なんかじゃない』
…私には青峰君もテツ君もきーちゃんもむっくんもミドリンも、赤司君だっている。迷惑をかけたくないってのは、私のエゴだ。
「…私、戦ってみる。今まで言われてばっかりだったけど、ちゃんと私の言いたいこと言ってみる。護ってくれる仲間がいるって大切なことなんですね」
『うん。男の子には言えないことってのはあると思うから、その時は遠慮なんかしないであたしに言うこと。さっきも言ったけど、あたしだって桃井ちゃんの友達なんだからね』
彼女は携帯を取り出し、連絡先を交換しようと言ってくれた。
「私と…友達になってくれるの?」
『…あのね桃井ちゃん。友達ってのは、口約束じゃなくて自然となるものなの』
それじゃダメ?と聞いてくる彼女が眩しくて、彼女の言葉が嬉しくて、私はもう一度泣いた。そして涙でよく見えない視界を一生懸命捉えて、なんとか携帯を操作して連絡先を交換した。
『それと!友達なんだから敬語もなし!若槻さんって堅苦しい呼び方なんていらないから!朱音でいいよ!』
「…うぇーん!朱音ちゃーん!わ、わたしのこともさつきって呼んで!」
『うん!じゃあさつき!これからもよろしくね!』
これ以上朱音ちゃんの練習の邪魔をするわけにもいかないから、名残惜しい気持ちは捨てて彼女の家を後にした。シャワーを借りた後から、私は彼女の服を借りていた。制服を探すと、彼女のお母さんが丁寧に汚れを拭いてくれていて、また涙が出た。
合宿所まで母親に乗せてもらうと言った朱音ちゃんと一緒に駅まで乗せてもらい、私もそれから練習試合が終わるギリギリに間に合うことが出来た。遅れたことを赤司君に謝罪すると私の顔を見て、彼女には本当に頭が上がらないと言っていた。
「さつき?遅かったな」
「大ちゃん聞いて!私、友達ができたんだよ!」
幼馴染の大ちゃんは一瞬驚いたような顔をしたが、あっそという言葉を残して着替えに行った。いつもより少しだけ嬉しそうな背中を私に向けて。
私たちもそのまま合宿が始まる。朱音ちゃんに負けないように、私も頑張らなくちゃ!