第6章 合宿
シャワーから出ると、若槻さんは誰かと電話をしていた。話の内容からして、部活のことだった。彼女は一人一人の練習メニューを電話の相手に伝えている。私に気づくと、一枚の紙にごめん、すぐ終わるから少し待っててと綺麗な文字を綴った。大丈夫ですよという意味を込めて微笑むと、今度はありがとうと書いてくれた。
『ごめんね、ちょっと練習のことで…』
「謝るのは私の方です。せっかくの合宿なのに…」
『大丈夫!向こうには任せられる人もいるから。それより、何があったのか聞いてもいい?言いたくない部分はいいからさ』
彼女は優しく笑うと、私の手を握ってくれた。それだけで心が軽くなった。だからだろう。今まで誰にも言えなかった本音をスラスラと口に出してしまっていた。
私には目が離せない幼馴染がいる。その幼馴染が帝光の男バスに入ったから私もマネージャーになった。帝光の男バスは人気があり、マネージャーの希望も多く、今年は試験が行われた。私は幼馴染の影響もあり、バスケの知識は誰よりも豊富だった。その甲斐あってか私は初めから1軍のマネージャーになった。それが気に食わなかったのか先輩からひどい仕打ちを受け始めた。それが徐々に学校にも広まっていき、男好きだとか近づくなとか散々言われた。モデルの子が入ってからはもっと酷くなった。今では学校で話しかけてくれるのは幼馴染も含めたバスケ部のほんの一部だけ。
「私、悔しいです。確かにきっかけは幼馴染だったけど、今ではバスケが大好きです。この気持ちだけなら誰にも負けないのに。私は私の愛するバスケを愛してくれる部員の皆の力になりたいだけなのに…」
長々と私の口からでた言葉を彼女はしっかりと受け止めてくれた。最後まで言うと黙って私を抱きしめてくれた。
『話してくれてありがとう。辛かったね。大好きなモノを否定されるって、絶対に辛いことだと思う。よく逃げなかったね』
あれだけ泣いて、もう涙は全部枯れたと思っていた私の瞳からは、また涙が零れていった。
『桃井ちゃんは一人じゃないよ。その幼馴染だって、他の子だって、赤司君だっている。それに、あたしもいる』
「…え…」
『あのね、桃井ちゃん。キツイこと言うかもしれないけど、結局最後に決めるのは自分自身なんだよ。これからどうしたいのかを決めるのも。だから桃井ちゃん自身がしっかりしなきゃダメなんだよ』