第6章 合宿
知り合いの家というものは神守さんの家だった。おそらく彼女のチームメイトである神守茉実さんの家だろう。
『あそこの家の子はあたしの大親友なんだ。いっつも無駄に明るいから多少疲れもするんだけどね。それでも絶対に失いたくないんだ。他にもあたしにとって大切な人はたくさんいる。その人たちを護りたいって思ってたら、いつの間にかそこに輪っかが出来てたんだ』
若槻さんは私を自転車の後ろに乗せ、話してくれる。いいなぁ、そういうの羨ましい。私には女の子の友達なんていない。昔はいたけど、中学になって、マネージャーという仕事に就いてから、私の周りから人は消えてしまった。
私がぼんやりと考え事をしていると、自転車が止まった。どうやら彼女の家に着いたらしい。立派な家だった。ここに彼女が過ごしてきた歴史がある。彼女をここまで強くした何かが。
『ただいまー』
母「おかえりー。…って朱音!?あんた合宿は!?」
『大丈夫、ちゃんと行くよ。お父さんとお兄ちゃんはもう行っちゃった?』
兄「なんだ、朱音。俺に何か用か?もう行かなきゃなんだけど」
『ううん、何もないよ。会えてよかった。行ってらっしゃい、気を付けてね』
兄「おう、朱音も頑張れよ。行ってきます」
すごく自然な流れで家族愛が繰り広げられていた。彼女の優しさは生まれつきなのかもしれない、という安直な考えを捨てた。きっと彼女が優しいからその家族も答えるように穏やかになるんだ。私の勘はよく当たる。
出掛けるというお兄さんにペコッとお辞儀をすると、ニコッと微笑み、ゆっくりしてってなと言ってくれた。
『お母さん、突然で申し訳ないけど、シャワー準備してもらっていい?』
私は慌てて頭を下げると、彼女の母親は彼女そっくりに優しく笑い、上がって待ってるように言ってくれた。そして今、お言葉に甘えてシャワーを借り、体に付いた汚れを洗い流している。