第6章 合宿
どれくらい泣いただろうか。ふと顔を上げると彼女の姿はなかった。けれど私の近くには彼女のスポーツバックともう一つ大きなカバンが置かれていたので、戻ってくることを意味していた。
『あ、泣き止んだみたいですね。すみません、ちょっと部活の方に連絡をいれてたもので』
彼女は鞄から何かを取り出し、私の手の中に置いた。覗いてみると、数個の飴玉だった。
『疲れたときには糖分です。甘いモノ、嫌いですか?』
まだ上手く声が出せない私は、首をフルフルと横に動かす。
『…こんな時にすみません。以前あたしとお会いしましたか?あたし、人の顔と名前覚えるの苦手で…』
私は携帯を取り出すとメール作成画面に必死に文章を
打つ
ー「以前、帝光中で。赤司君と一緒にいましたよね。私はバスケ部のマネージャーの桃井さつきです」
画面をみた彼女は申し訳なさそうに謝る。ごめんなさい、と謝る彼女に首を必死に横に動かす。それにしても彼女は私のことを覚えていなかったにも関わらず、私を助けてくれた。彼女は優しくて強い人間だった。私だったらきっと、見捨てて逃げていたと思う。
『そういえば、部活?』
彼女の言葉にハッとなる。時間を見ると集合時間までにはもう間に合わない。1人でアワアワしていると彼女は携帯を取り出してどこかに電話をかけた。
『あ、もしもし?赤司君?』
なんと電話の相手は赤司君だった。なぜ番号を知っているのだろうと思ったが、二人は知り合い。それも生徒会長同士。知っていても何も可笑しくはないのだ。そして凛とする赤司君の声はスピーカーを介してでも、私にもはっきりと聞こえた。