第18章 そしてWCは伝説となる
敦の試合が終わり、トイレのために席を立つ。敦が負けた、テツヤと新しい光のチームに。何気に負けず嫌いの敦はどうするのかと考えていると、その敦と朱音の声を聞いた。敦の口調からすれば、少しいじけているようだ。慰めてやるか、と珍しく思った僕は角を曲がりながら後悔した。
世界が、全てが止まった。敦が朱音を抱きしめていたのだ。僕の朱音を。だけど怒る理由も無ければ資格も無かった。敦が朱音を好きなのは知っている上、何より僕はまだ朱音の彼氏でも何でもない。けれど確かに胸の奥に気持ち悪い何かが流れてきたのを感じた。とにかくここを離れよう、その思いだけで足を動かした。首にかかっているリングを握りながら。
玲央「あら征ちゃん。どうしたの?って…顔が真っ青じゃない!大丈夫?」
「れ…お…」
玲央がいて1人じゃない事に安心したのか、僕の張りつめた緊張が緩み意識を手放してしまった。
そして目が覚めるとそこには涙を流している朱音がいた。どうしてここにいるのか、そう聞こうとしたが朱音によってそれは阻止された。朱音の温かみが僕の体を包んでいたから。
『征ちゃんっ!良かった!倒れたって聞いて…ひっく…ここについたらベッドの上にいるし…ひっく…目覚まさないし…ひっく…』
「朱音…すまない、朱音。どうって事ないんだ。心配かけて悪かった」
『何で謝るの!?それに倒れたんだよ!?どうって事無いわけないじゃない!』
玲央「そうよ。ここ最近、征ちゃんずっと寝れていないじゃない」
『そうなの?』
医師「寝不足が原因で倒れたのよ。緊張してってのがほとんどだけどよくあるのよ。けどあなたは緊張なんてしなさそうだけど?」
その通りだった。緊張しているわけでもないのに寝れない。高校生になってからずっと安眠出来た事なんてない。それはきっと朱音が近くにいないから。いつでも会える距離に朱音がいないから。