第18章 そしてWCは伝説となる
「本当に帰らないでよ」
『ごめん。帰るつもりはなかったよ』
「うん…」
『ねぇ、あっ君。バスケ、やめないよね?』
「…やめる。…はずだったけど。しょーがないから朱音ちんがどうしても続けてって言うなら続けてあげるよ」
『クスッ…じゃあどうしても』
「分かった。ねぇ、朱音ちん。ギュッてしてもいい?」
『えっ?』
「今無性にしたいんだよね~。ねぇ、お願い」
最後に言ったお願いの声と顔が本気だったから、あたしは頷くしか出来なかった。そしてあっ君がゆっくりと近付き、優しくあたしを抱きしめた。汗と一緒に香った甘いお菓子の匂いがあっ君ぽかった。
この時あたしはあっ君の力になりたくて必死すぎたのだった。2つの視線に気付かない程に。
あっ君と別れ皆の元に戻ろうとすると、血相を変えたある人に呼ばれた。その人からの伝言を聞くと、あたしは走り出した。嫌な汗が流れる。とにかく無事を願って走り、ある場所に着き足を止めた。静かにしなきゃいけない空間である医務室の扉を乱暴に開けた。
『征ちゃん!』
ベッドの上には葉山さんに聞いた通り、倒れたであろう征ちゃんが眠っていた。